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あとがき

日本の山夜景には凄まじい光量に圧倒される大都市や盆地や河川など独特の特徴をした美しい地形、海岸線に沿って広がる光のラインなど、さまざまな特徴があり、誰もがその光景に魅了される。それこそが私を夜間登山へと誘った動機付けである。「なぜ山に登るのか?」という問に対して「そこに山があるから」という名言があるように、「なぜ夜間登山をするのか?」という問に対して、私は「そこに山夜景があるから」と答えるであろう。日本は山国であることから、山夜景スポットは全国各地に存在している。

私にとって山夜景というのは山から見る風景の一つであり、夜間登山というのは雪山登山や沢登りなどといった登山スタイルの一つである。夜間登山に関しては賛否両論があるが、登山者にとって必要不可欠な山岳技術であるといえる。以前からご来光登山や日本アルプスでの登山の際に夜間登山は行われていた。最近では日本各地において山夜景を目的とした夜間登山も行われている。ウェブサイトや書籍でそれなりの山岳技術や知識を要するといった解説をしているが、最も基本であり重要であるのは「無事に家に帰ること」だと私はいつも念頭に置きながら夜間登山を行っている。もちろん簡単にアクセスできる展望地と違って、暗い登山道を苦労しながら歩いて得た山夜景なので感動も増すであろう。だからといって簡単にアクセスできる山夜景と比較したり否定はしない。

私がはじめて山夜景の選定を行ったのは書籍「山夜景をはじめて楽しむ人のための関西ナイトハイキング」(創元社)の出版が決まった時であった。山夜景の宝庫である関西地方限定での選定となったことも含めて、全国的にはあまり売れ行きが良くなかった。その後、全国版の出版を試みたものの、低山ばかりで夜間登山や山夜景はあまり需要がないということから企画が通らなかった。それでも執念深い私は、夜間登山活動を続けて全国各地の山夜景スポットを巡ってきた。そして、今回の日本夜景100山の選定を行うことにした。
山夜景を百も選定するには、その数倍のスポットを巡らなければならない。どれほどの山夜景スポットを巡ったかは数えていないが、十年以上にわたって活動を行ってきたので、多くの山夜景を知っているというのが私の強味であった。

日本における夜景の選定は日本夜景遺産や日本夜景100選といったものがある。どちらも素晴らしい夜景スポットを選定しているという点においては否定しない。他にも夜景スポットの紹介や選定をしているサイトなどを多く見かけるが、どれも共通して腑に落ちないのは誰もが安全かつ容易にアクセスできる観光スポットやデートスポットであるという要素が強く、そのほとんどが夜間登山を要する展望地を除外していることである。特に山夜景に関しては前途で述べているように山から見る風景であり、夜間登山はそれを望むための一つの手段といえる。

日本夜景100山の選定に批判する人もいるだろう。これは主観的な見解で妥当であるとは言えないという意見もあると思うが、あらゆる観点から検討して選定した。もちろん夜景山岳会のメンバーや他の人達の協力があって選定したことはいうまでもない。

私は選定を行う際に五つの基準を定めていた。まず一つ目は山夜景そのものの質で、誰もがその光景を望んで感銘を受けるものであること。二つ目は特徴で、視界の広さや光量ではなく個性のある美しい独特の地形であるということ。三つ目は山の位置で、非常に珍しく貴重な場所であること。四つ目は知名度で、地元住民などから親しまれている人気のスポットであること。そして五つ目は理論値による評価で、視界の広さ、迫力、光量、景観美の四つを対象として、その総合評価が高いものであること。それら五つの基準のうち、いずれかが卓越しているものを選び出した。

日本夜景100山を選定するにあたって、まずは候補地リストを作った。その中で六割ほどは必ず入れるべき山夜景であったので難なく選定できた。残り四割ほどの選定にはかなり悩まされたが、山の位置や知名度、夜景山岳会のメンバーからの意見などを考慮しながら一つずつ念入りに選択していった。もちろん候補地リストの中で日本夜景100山の選定から外した山夜景も多くあったが、その具体的な理由をあげていく。

まず、北海道は他に旭川市の近くにある嵐山展望台、札幌市の三角山と大倉山展望台の三つが候補地リストにあった。嵐山展望台はなかなかの山夜景であったがあまり特徴がなかった。三角山と大倉山展望台については、札幌市の山夜景は藻岩山で事足りているため選定から外すことにした。

東北地方は他に青森県の岩木山、岩手県の姫神山、宮城県の青葉山城址、山形県の西蔵王公園、福島県の磐梯吾妻スカイラインにある不動沢橋の五つが候補地リストにあった。岩木山に関しては本格的な登山技術を要する長い山行工程であるため夜間登山には不向きだと判断した。姫神山はあまりにも光量が少なく角度が甘すぎた。仙台市の青葉山城址はあまりにも標高が低すぎた。山形県の西蔵王公園と福島県の磐梯吾妻スカイラインに関しては山という概念がしなかったことで選定から外した。

関東地方は他に栃木県の羽黒山と大小山、群馬県の大パノラマ夜景展望台、埼玉県の宝登山と天覧山、東京都の八王子城址、神奈川県の鳶尾山観光展望台とチェックメイトCCの八つが候補地リストにあった。羽黒山と大小山はあまりにも角度が甘すぎて光量に乏しかった。大パノラマ夜景展望台は特徴がなく山という概念がしなかった。宝登山に関しては選定に入れても良かったが光量が物足りなかった。天覧山は知名度が高いが夜間入山禁止となってしまった。八王子城址は展望地というより登山道の途中にある開けた場所という概念が強かった。鳶尾山観光展望台はあまりにも特徴がなさすぎたのとチェックメイトCCに関しては山という概念がしなかったことから選定から外した。

甲信越地方は他に新潟県の金倉山休憩展望台、長野県の鷹狩山展望台、高ボッチ高原、杖突峠、萱野高原、山梨県の健康の森、天上山公園の七つが候補地リストにあった。金倉山休憩展望台は角度が甘く中途半端な構図であった。鷹狩山展望台はあまりにも光量に乏しかった。高ボッチ高原に関しては知名度が高いが訪れた際にあまりにも市街地までの距離が遠かったので撮影すらしなかった。杖突峠と萱野高原は光量に乏しく角度が甘すぎた。健康の森は視界が狭く山という概念がしなかった。天上山公園に関しては選定に入れても良かったが、三つ峠山や黒岳の存在が大きくて選定から外した。

東海地方は他に静岡県の熱海城、伊豆スカイラインの各展望地、梶原山公園、愛知県の継鹿尾山、岐阜県の百々ヶ峰、野一色権現山、三重県の多度山、経ヶ峰、枡形山の九つが候補地リストにあった。熱海城は構図はかなり良いのだが標高が低すぎた。伊豆スカイラインの各展望地は角度が物足りず山という概念がしなかった。梶原山公園は視界が途切れていて中途半端な山夜景であった。継鹿尾山はあまりにも特徴がなさすぎた。百々ヶ峰は金華山の劣化版という感じがした。野一色権現山は解放感に溢れているものの特徴が全くない山夜景であった。多度山は知名度が高いが角度が物足りず構図がいまいちであった。経ヶ峰は角度が甘く光量に乏しかった。枡形山(白米城跡)に関しては個人的に好ましい構図ではあったが山夜景そのものの質が低かったため選定から外した。

北陸地方は他に富山県の風の城の一つのみ候補地リストにあったが、角度が甘く光量が少ない上、これといった特徴がなかった。

関西地方は他に多くの山が候補地リストにあった。まず滋賀県の猪子山、菩提寺山、竜王山、逢坂山の四つと京都府の将軍塚、日野岳パノラマ岩、槇尾山展望台、釈迦岳見晴台、姫髪山の五つがあがっていた。猪子山は非常に構図が良くトワイライト夜景はとても美しいのだが光量や視界が物足りなかった。菩提寺山は角度が物足りず中途半端な構図であった。竜王山は知名度があるものの角度が甘くて光量が乏しかった。逢坂山は湖西側の眺望が中途半端であった。将軍塚は知名度が高いものの視界が狭くて山夜景そのものの質が低すぎた。日野岳パノラマ岩と槇尾山展望台の二つはあまり特徴のない山夜景であった。釈迦岳見晴台は登山道から外れた非常にわかりづらい位置にあって角度が物足りなかった。福知山市の姫髪山は山頂直下が絶壁の急斜面になっているため夜間登山はかなりの危険を伴うと判断したため選定から外した。

次に大阪府は六個山、一蓋被の嶺、みはらし休憩所、神於山、奥山雨山自然公園の五つが候補地リストにあった。六個山は隣の五月山と眺望が重複していて特徴的のない山夜景であった。星田連山の一蓋被の嶺は登山道が荒れていて迷いやすく夜間登山には不向きだと判断した。みはらし休憩所は「ぼくらの広場」の劣化版という感じがした。神於山は地元住民に親しみのある山であるが、樹林に遮られて眺望があまり良くなかった。奥山雨山自然公園の頂上展望台は構図がいまいちで角度が甘すぎたため選定から外した。

続いて奈良県の明神山、大国見山の二つと和歌山県の和泉葛城山、名草山、章魚頭姿山、鷲ヶ峰コスモスパークの四つが候補地リストにあった。明神山は光量が少なくかなり質の低い山夜景であった。大国見山は隣の龍王山と眺望が重複していて視界も狭かった。和泉葛城山の展望台は岩湧山の劣化版という感じがした。名草山に関しては非常に良い構図でトワイライト夜景がとても美しいが、登山道があまりにも荒れていて迷いやすく夜間登山は不向きだと判断した。章魚頭姿山は視界が良くて港夜景などの撮影を楽しめるが、あまりにも標高が低すぎた。鷲ヶ峰コスモスパークは光量や視界が非常に乏しく山夜景そのものの質が低すぎたため選定から外した。

関西地方の最後である兵庫県は川西市の満願寺西山、宝塚市の行者山東観峰、姫路市の御旅山、相生市の宮山の四つが候補地リストにあった。満願寺西山は大阪北部夜景三山の中で最大級の視界を誇る山夜景であったが、展望地であった鉄塔付近は樹林に遮られており、現在は絶壁の岩上でしか望めなくなった。行者山東観峰は角度も程よく光量溢れる山夜景であるが、観音山と眺望が重複しているため選定から外した。姫路市の御旅山は構図が良くて非常に美しいトワイライト夜景を望むことができるのだが、あまりにも標高が低すぎた。相生市の宮山に関しては独特の地形でありながら非常に珍しい山夜景だったので選定に入れたかった一つであったのでかなり悩まされたが、正規の登山道がない完全なバリエーションルートで迷いやすいので夜間登山には不向きであること、そして標高は基準値を満たしておらず光量も乏しいことからやむを得ず選定から外した。

中国地方は他に岡山県の遙照山総合公園、鳥取県の升水高原(伯耆大山)、広島県の石鎚山(芦田川フライトエリア)、浄土寺山、岩谷観音(高尾山)、山口県の大平山の五つが候補地リストにあった。遙照山総合公園はあまりにも角度が甘く光量も乏しかった。升水高原は良い感じのC字構図になっているが光量に物足りなさを感じた。石鎚山(芦田川フライトエリア)に関しては選定に入れるか悩んだ一つであったが、特徴的であるものの構図的にはいまいちだった。浄土寺山の不動岩は新尾道大橋と東西に伸びる尾道水道のコラボレーション夜景が非常に美しかったが、あまりにも標高が低すぎた。岩谷観音(高尾山)は角度が甘く広島市街地までの距離が遠く感じた。山口県の大平山は視界が物足りず隣の右田ヶ岳より劣っていたため選定から外した。

四国地方は他に香川県の峰山公園、香川県の龍王宮、愛媛県の近見山展望台、具定展望台、尻割山の五つが候補地リストにあった。峰山公園は視界が物足りず構図もいまいちだった。高知県の五台山はかなりの知名度を誇っているが、標高が低いため全体の特徴を捉えきれてない残念な山夜景であったが、香川県の龍王宮を最初に選定していたが、それよりも知名度が高いとのことで五台山のほうを選定した。近見山展望台は特徴的なのは来島海峡大橋ライトアップだけで、全体的には奥行のない細長い山夜景でいまひとつ美しさを感じられなかった。具定展望台はたしかにレベルの高い夜景ではあるが、道路沿いにある展望地で山という概念がなかった。尻割山に関しては選定に入れるか少し迷ったが、理論的に標高が高ければ角度が甘くなってしまう代表例であり視界も物足りないため選定から外した。

九州地方は他に福岡県の風師山と油山の片江展望台、大分県の霊山と十文字原展望台、熊本県の金峰山、長崎県の鍋冠山公園の六つが候補地リストにあった。風師山に関してはもともと選定に入れていたが、山口県の火の山公園と重複している部分があり光量に欠けていたので最終的に選定から外した。油山の片江展望台は光量に溢れていて質は良かったが、これといった特徴を持たない残念な山夜景であった。霊山の展望台は光量と視界が物足りなかった。十文字原展望台は知名度が高く美しい逆C字構図を描いた特徴があるものの、全体的に光量に乏しい非常に惜しい山夜景であった。熊本県の金峰山は特徴的で個人的には好ましい山夜景ではあったが、電線など邪魔なものがあり最近では樹林に遮られつつある残念な山夜景であった。長崎県の鍋冠山公園はかなりの知名度を誇っているが、標高が低くくこの周辺の山夜景は稲佐山で事足りているので選定から外した。

これらが私が作成した候補地リストであり、その中から選定を外した理由を述べてみたが、それに関して異論を唱える人も多くいるであろう。あくまで私の主観によって定めた基準であり、どこの山夜景を望んでもただ素直に美しいと感じて満足できればそれで良いというのが基本理念であると常に心掛けている。なお、全く候補地リストにも入れていないのが秋田県、島根県、千葉県、鹿児島県、沖縄県である。この五県のいずれもこれといった山夜景は無かったが、私がまだ足を踏み入れていない山に素晴らしい夜景スポットがあるかもしれない。日本全国の山にはまだまだ可能性があり、候補地リストに入れなかった山夜景であっても素晴らしく美しい展望地は存在しているとも伝えておく。

この日本夜景100山の中で一番好きな山夜景は何処であるかと問われれば非常に困惑してしまう。それぞれ異なった特徴や魅力があるので理論的評価を除いて比較できるものではない。まして美しさや人気度などのランキングをつけるといったことは差し控えたい。それゆえ、各山夜景の紹介ページに美しさや感動を表す指数値も入れなかった。それとは矛盾しているかのように日本夜景100山の中から日本三大山夜景を選定しているのだが、これらは私が実際に望んだ時の感覚と理論的評価で最も卓越していた三山である。ときどき「どこの夜景が日本一なのか」といった質問や比較しているウェブページを目にすることがあるが、そのほとんどが誰もが簡単にアクセスできる人気の山夜景スポットが選ばれている。山夜景の評価は知名度や人気度だけで計れるものではないと私は常々感じている。しかし、私が各山夜景を理論的評価した結果で一番総合得点が高かったのは大阪府の「ぼくらの広場」であったが、これはあくまで理論値での結果である。人それぞれ視点や価値観が違うので日本一の夜景は丹沢の大山や稲佐山だという声もあるだろう。

最後に日本夜景100山の選定に協力してくれた登山仲間の田村拓也さん、あらゆる山夜景を紹介してくれた登山仲間の岡本英明さん、書籍の出版や夜景撮影の方法を詳しく教えていただいた堀寿伸さん、夜景写真を使わせていただいた岩崎拓哉さんとKawase Takuyaさん、あらゆる静岡夜景を案内してくださったAkihiro Yugetaさん、何度か過酷な雪山夜間登山にお付き合いしていただいた権田昭生さんには非常に感謝しており厚くお礼を申したい。

夜景山岳会 - 日本夜景100山・日本三大山夜景事務局 代表:夜景登山家・松原了太

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